「記録に残すには、ぎりぎりの時期だと感じました」。福島県双葉町は東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の記録誌をまとめた。編集担当の元町秘書広報課長大住宗重さん(62)の言葉が印象に残る。
 町民の避難先に足を運び、直後の混乱やその後の避難生活に関する証言を集めた。震災から5年半が過ぎた時期。「今だから話せる」と貴重な話を聞けた一方、記憶が薄れ細部が曖昧なこともあったという。
 震災から1年で記録誌を作った自治体もある。双葉町は後発組だが、全町避難が今も続き、町民の生活再建支援が何より優先されてきた。「教訓を後世に」という責任を果たすにはこのタイミングしかなかったのかもしれない。
 時間の経過とともに、原発被災地は町民の帰還意欲低下への懸念を強めている。今春は県内4町村の避難指示が帰還困難区域を除き解除されたが、双葉町は同区域が96%を占める。解除への道は遠い。
 町の記録誌は震災前の紹介から始まる。美しい自然や豊かな食、笑顔があふれる四季の行事。大切な記憶を守り、時間との闘いに負けまいとする努力が続く。
(いわき支局長 佐藤崇)