「降りる」という言葉には、負のニュアンスが漂う。プロ野球なら、打ち込まれた先発投手が「マウンドを降りる」。KOだ。「役職を降りる」の英訳は「give up the post」。辞任である。
 明るさから遠いこの言葉のイメージを、変えた人がいる。先日、現役引退を表明したフィギュアスケートの浅田真央さんだ。
 ジャンプの成功を「降りる」と表現した。しかも「ノーミスして降りる」。演技全体をミスなく滑るという意味だが変な日本語だ。それでも彼女が言うと妙に納得する。スケート界の専門用語だったはずの「降りる」。注目度の高い彼女のおかげで知れ渡り、紙面で見掛けることも増えた。
 彼女には、抹茶を飲んで「あ、お茶みたい。濃いお茶みたい」と語ったという逸話も。長嶋茂雄さんの「初めての還暦、ましてや年男」に匹敵する迷言? であろう。強い個性を持つ人から発せられた言葉は、時に不思議な魅力を放つ。
 長嶋さんが長嶋茂雄であり続けるように、真央ちゃんも浅田真央という役を降りることはできない。ただ、「ノーミス」という肩の荷だけは下ろしてほしい。(整理部次長 村上朋弘)