主人公は爆弾に見立てたレモンを書棚に置き、鬱屈(うっくつ)した心情を洋書店ごと爆破してしまえと夢想する。梶井基次郎の小説「檸檬(れもん)」がいまも読み継がれているのは、この夢想場面の設定がたやすく、だれでも日常的に応用できることにあるのではないか、と思う。
 梶井には遠く及ばないだろうが、読書欄デスクにとっても、週明けは憂鬱(ゆううつ)だ。出版社などから毎週数十冊も届けられる単行本、雑誌の配達が集中するからだ。机の上では、処理しきれず積み残した本の上に、新本が見る見る山積みとなり「早く片付けろよ」と言わんばかりの同僚たちの冷たい視線をひしひしと感じる。
 片付けたいのはやまやまだが、包装を解き本を手に取ると、目を通すだけでは済まず、ついつい読み始めてしまう。書籍は次々と届き、仕分けした本と未開封の本がまだら模様に。
 震災時に崩れた自宅の書棚の整理もおぼつかない身でありながら、職場でも本の山に埋もれるとは…。
 こんな時にむくむくとわき上がる妄想が、檸檬の爆弾だ。平積みされた本の山にそっと檸檬を置いて立ち去れたら、どんなにすっとするだろう。(生活文化部次長 新迫宏)