記事を載せていいのか。同僚のK記者は悩んだ。
 「大変です。取材した人が急に亡くなりました」。K記者の慌てた様子に、ショックの大きさを感じた。原稿は既に完成し、デスクの校了済みだった。
 取材は、東日本大震災の津波で被災した人に震災当時の話を聞き、津波の恐ろしさ、命を守る教訓を広く伝えるのが狙いだ。
 聞き書きスタイルの原稿は、1行12字で約80行。津波をかぶり死を覚悟しながら何とか助かり、すぐに高台に逃げなかった一瞬の判断の迷いを「甘かった」と自省の念を語っている。
 K記者、ほかの記者たちと、どうするか話し合った。記事掲載前に取材した人が亡くなるのはまれだ。結果、「貴重な証言。趣旨を理解し取材を受けてくれた思いを尊重し、遺族の承諾が得られたら掲載しよう」となった。
 時の経過とともに記憶は薄れる。人によっては思い出したくない記憶もある。それだけに、伝える意味の重さを再確認した。
 遺族の理解を得られた。記事は震災6年4カ月の11日付朝刊特集「いのちと地域を守る」の「伝える」のコーナーに掲載される。
(報道部次長 玉應雅史)