年月がたっても、忘れられない味がある。
 1994年3月末、異動先の酒田市に車で向かった。途中、夜の庄内平野は時季外れのふぶきだった。ホテルに着くと、近くに飲食店の明かりはなかった。閉店間際のホテル内の日本料理店に頼み込んで、何とか遅い夕食にありつくことができた。
 その時の庄内米が格別だった。空腹に加え、ようやく赴任先にたどり着いた安堵(あんど)と、初めての支局生活をうまく送れるのかという不安がない交ぜになった思いを、白米が落ち着かせてくれたのかもしれない。
 さらに大きかったのが、当時、当たり前に食べられるはずのコメを思うように口にできなかったこと。前年の93年は記録的な冷夏で、東北も凶作だった。タイなどからコメを緊急輸入してしのぎ、コメ不足は社会問題にもなった。
 秋田で暮らしているとピンと来ないが、この夏、東北の太平洋側は低温で雨が続いた。やませの仕業だ。
 93年の夏も同じような気候だったと記憶しているだけに、出来秋が気になる。茶わんに盛られたご飯を前に、当時痛感したコメのありがたさを思い出した。
(秋田総局長 宮川宏)