勝利の熱気が冷めやらぬ選挙事務所でポケベルが鳴った。公衆電話で会社にかけると、受話器の向こうのデスクが一言。「予定稿、届いてないよ」
 21年前の衆院選投開票日。当時は岩手県南の支局にいた。小選挙区比例代表並立制が初めて導入され、支局管内では元議員が比例単独で立候補していた。
 選挙報道では予定稿を用意する。当落判明後の候補者らの表情を描く「当落雑感」の事前出稿を指示したデスクの手配書をしっかり確認していなかったのだ。
 頭の中は真っ白。パソコンで書いた記事を瞬時に送れる今と違い、ワープロを置いてある支局で原稿を書いた時代。写真も自分で現像しなければならない。
 ハンドルを握って支局に戻りながら、頭の中で必死に原稿を組み立てる。早い時間に当落が決した幸運に助けられ、締め切りに滑り込みで間に合った。思い出すと今も冷や汗が出る。
 1996年の総選挙は自民党に野党の新進、民主両党が挑む構図だった。複数野党が与党批判票を奪い合う今衆院選と似ている。
 投開票は3日後。予定稿の入れ忘れなどないよう準備万端で迎えよう。(福島総局副総局長 大友庸一)