宮城県内の、としておこう。とある温泉宿。
 東日本大震災で設備に被害があり、廃業を決めた。「何となく、やる気がなくなって。私も年だし」と、おかみさんは言う。
 玄関は今も開いており、客待ち顔のスリッパがきれいに並べられている。「ここの湯が生きがい」と、通うのをやめないお年寄りがいるからだ。湯量豊富な源泉は健在で、男女別の大きな浴槽にどんどん注がれ、あふれ、流れてゆく。
 震災から6年8カ月。おかみさんの心境にも変化が兆した。「人手がないので宿泊営業は無理だが、日帰り入浴を再開しようかと思って」と言い始めた。「名湯がもったいない」と、周囲が背中を押したのだ。
 男湯の窓はひび割れ、浴室の隅には草まで生えている。シャワーも使えないままだ。日帰りとはいえ、再開は年明けになりそうだ。
 この欄で温泉のことを書くと、読者からたくさんの問い合わせをいただく。でも、今回は宿の名などは明かせない。再開が本決まりになったら、本紙で紹介したいと思っている。心の復興の形として記事にすることを、今から楽しみにしている。
(整理部次長 野村哲郎)