あいにくの雨となった休日、JR秋田駅から羽越線上り普通列車に乗った。40分弱で、由利本荘市の羽後亀田駅に着いた。他に乗降客のいない小さな駅だが、一度訪ねてみたかった。故松本清張さんの小説「砂の器」の舞台だからだ。
 ある男性が殺される前、バーで男と会っていた。「カメダは今も相変わらずでしょうね?」。東北なまりという証言から、事件を追う刑事はカメダが羽後亀田駅のことではないかとにらみ、手掛かりを求めて後輩の刑事と現地を訪れる。
 小説は1974年、故野村芳太郎監督により映画化された。好きな邦画の一本で、何度も見た。羽後亀田の場面は冒頭に登場する。
 木造の駅舎は一部を除いて変わっていなかった。劇中の警察署は、かつて郵便局だった建物。今は1階にシャッターが下りていた。刑事2人が訪れる寺の山門は当時のままだった。
 映画の公開から43年。作品の舞台が今も残ることは、ファンとしてはありがたい。だが、変化がないことは、往時のにぎわいを失ったこの地域の現状を物語っているとも言える。素直に喜んでいいのか。複雑な思いを胸に、帰路に就いた。
(秋田総局長 宮川宏)