石巻総局の近くに小説家志賀直哉の生家跡がある。父親の志賀直温(なおはる)は第一銀行石巻支店に勤めていた。直哉は2歳まで、石巻で暮らしたという。
 直温は銀行を辞め、総武鉄道などで役員を務めるなどして明治の財界で重きをなした。大崎市の鳴子温泉郷にあった「熊沢銅山」を買っている。
 そんな志賀父子の話を思い出したのは、先日、鳴子温泉のJR陸羽東線中山平温泉駅が開業100年を迎えたという記事に触れたからだ。10年ほど前、中山平温泉駅近くの林道から山に入り、熊沢銅山跡を訪ねたことがある。
 直哉は父と銅山を見に行ったことを紀行文「山形」に記している。その足跡をぶらぶらたどってみた。直哉が銅山を訪れたのは1907(明治40)年だから、17(大正6)年開業の中山平温泉駅はまだない。
 直哉も歩いたであろう銅山へ続く道は、痕跡をくっきりと残していた。山道を歩いて約1時間。沢の近くに、銅山の坑道入り口が岩にふさがれてあった。
 あの道は今、どうなっているのだろう。温泉につかりながら、歴史探訪の小さな旅がしたい。
(石巻総局長 古関良行)