東日本大震災の記憶を伝える遺構の存廃が、再び議論になりそうな気配だ。
 岩手県大槌町の平野公三町長は、当時の町長や多くの職員が津波の犠牲になった旧役場庁舎の解体費用を予算計上する方針だと、9日付本紙朝刊が伝えた。
 旧庁舎は当初から解体か保存か町民の考えが二分した。2015年町長選の争点の一つになり、解体を訴えた平野氏が当選。その後、解体費用の予算計上を見送り、当面凍結するなど迷走した経緯がある。
 宮城県女川町は旧女川交番の保存方針を決定。名取市閖上地区では約50人の命を救った歩道橋が撤去された。震災から6年9カ月。まちづくりが進むにつれ保存、解体が現実化する。
 地域によっては議論の対象にならないものもある。解体、保存をすんなりと受け入れるケースもあれば、住民の感情が対立する事態もあり、一様ではない。
 宮城県南三陸町の旧防災庁舎のように県有化し、一時保留にして考える猶予を設ける対応は妙案だが、そう簡単ではない。試されるのは民主主義の熟度か。いずれにせよ、事を急ぎ、地域にしこりを残すことは避けなければならない。
(報道部次長 玉應雅史)