講演やシンポジウムに招かれたことがある。報道機関のベテラン記者、あるいは当事者ではない第三者としての視点を期待されて、らしい。ただ、つらいのは知ったかぶりをして、もっともらしいことを話さなければならないときだ。
 知ったかぶりをするな、と記者時代から自分に言い聞かせてきた。可能な限り「なぜ」を突き詰める。当然のことながら、そうして自らが理解し納得して原稿にしなければ、読む人の理解は得られないからだ。
 「なぜ」は、物事の本質に迫る出発点でもあろう。
 「なぜ」を自問し、自ら答えを出してほしい人たちがいる。耳を疑い、憂慮した今年のニュースの一つ。新車の無資格検査や素材の品質データ改ざんといった不正が相次ぎ発覚した、ものづくり企業の人たちだ。
 不正は長期に及ぶ。なぜ始まり、なぜ放置されてきたのか。そのことになぜ疑問を抱かなかったのか。経営者と当事者たちの自省と自覚なしに、再発防止も信頼回復も始まるまい。
 来る年にはどんな「なぜ」が待ち受けているか。この国のほころびを振り返りつつも、光明に期待し筆を納めたい。良いお年を。(論説副委員長 佐々木恵寿)