落語家の8代目桂文楽は5代目古今亭志ん生と並び、戦後、名人の呼び声が高かった。芸と女性以外には興味がなかったようで、晩年、「近頃めっきり耳が遠くなりましてね」と言いながら、人の話はろくすっぽ聞いていなかったという。
 どうしても返事をしなければならないときは、大きくうなずいて「近頃はたいていそうだよ」と判で押したように言った。これでほとんど用が足りたらしい。演芸評論家の矢野誠一さんが『人生読本 落語版』に書いている。
 試しに女房相手にやってみた。なるほど、いける。
 ひょっとしたら森羅万象に通じるかもしれない。当欄の上に載る「社説」、あるいは1面の「河北春秋」はどうだろう。いずれも真ん中か後半辺りに、それらしく「最近はその傾向が強い」「時代の流れか」などとそっと入れて読む。違和感はない。やや飛躍の感は否めないものの、評論・主張がむしろ引き締まり、これぞ大局の真理を突く「春秋の筆法」ではないか。
 8代目はきっと、世間は何年たとうがそう変わらないと達観していたに違いない。こだわりを捨てた見方を、と思う近頃である。
(論説副委員長 日下三男)