桜が咲いても夜になると冷え込み、帰宅途中にクイッと傾けたくなる。
 「精神の疲れはアルコールを求め、肉体の疲れは甘い物を求める」と言ったのは作家の開高健だったか。行きつけの仙台駅近くの居酒屋の親方はその辺を心得ている。うれしいことに裏メニューに炭火焼きのおにぎりがあるし、ときにお菓子も出してくれる。
 酒飲みのたわ言と笑われそうだが、居酒屋は座談の宝庫。袖触れ合って酒を酌み交わすのも、立派な縁だろう。
 他愛のない話題で盛り上がるうちに、ふとニュースのネタを求めている自分に気付かされる時がある。もちろん収穫はまずないのだが、新聞社に長年勤めていると、世の中の人がまだ知らない特ダネに出くわしたくなる。
 ずいぶん昔、たった一度だけ、その幸運に巡り合ったことがある。宮城県内のある場所で、漁船の違法改造が行われていることを教えてくれた人がいた。居酒屋の片隅での出来事。
 「誠実な酔っぱらい」と言いたくなる人だった。また出会えないだろうか。という理屈をこねて、居酒屋通いがやめられない。
(写真部次長 及川圭一)