このところ自宅や職場に、知人から転勤、退職のあいさつ状が届く。「お世話になりました」「元気でやってます」。ご丁寧にペットとのツーショット写真が刷り込まれた便りもあった。
 はがきや封書は不思議なものだ。メールや電話よりも、つづりから配達まで多くの時間を費やすからだろうか、差出人を余計に懐かしくさせる。
 脚本家で作家の向田邦子に「字のない葉書(はがき)」という題の随筆(講談社文庫『眠る盃(さかずき)』所収)がある。戦時中、父は疎開する妹に大量のはがきを持たせる。宛先は全て自分宛てとした。「元気な日はマルを書いて、毎日一枚ずつポストへ入れなさい」。はがきは毎日届いた。初めこそマルは鉛筆書きで裏面いっぱいに大きかったが、徐々に小さくなり…。
 はがき1枚に物語が展開された時代があった。迎えたデジタル全盛の社会で、人は何を手にし、失ったのだろう。
 暦に目をやれば、20日は郵政記念日とある。飛脚を経て1871年に始まった郵便制度。手元のあいさつ状で、ネコが飼い主の胸で笑っている。そう見えた。