東日本大震災の風化が叫ばれ、次世代への伝承が課題となる中、東北学院大の金菱(かねびし)清教授(41)は担当する環境社会学の講義にユニークな手法を取り入れた。
 震災遺族を招き、体験を語ってもらうまでは従来通り。聞く前、学生に名刺大の紙を12枚配り、そこに自分の大切な「有形物」「無形物」「活動」「人」を三つずつ書かせておく仕掛けをした。
 沿岸部で暮らす両親の安否が分からない不安、泥まみれの亡きがらと対面した動揺…。胸がつぶれるような語りの節目、金菱教授は学生に瞑想(めいそう)させ、穏やかな声で指示した。「別れの時が来ました。紙を〇枚を選んでちぎってください」
 書いてあるのは親兄弟の名だったり、思い出の品だったり。最初は何とか破けても、5回繰り返して最後の1枚まで強いられた時、学生は思い知る。この地で、つい6年前にあったことの壮絶さを。
 死生学で一般的な「疑似喪失体験」の手法をあえて用いたのは「震災を『わがこと』と受け止めてほしい」との願いから。目を赤くした90人の心に、震災はより深く刻まれたに違いない。(2017・5・24)