かつて塩は宝だった。「塩の道」と呼ばれた街道があり、沿岸部などから内陸部へ、馬や牛の背中に積んで運ばれた。海外にもさまざまなルートが存在する。
 石巻市出身のカメラマン片平孝さん(73)が魅せられたのは、西アフリカの「塩の道」だった。2003年にマリ共和国に単身渡り、ラクダのキャラバン「アザライ」に同行。その足跡をたどった『サハラ砂漠 塩の道をゆく』(集英社新書ヴィジュアル版)を先日、出版した。
 干上がった塩湖の岩塩鉱山まで往復1500キロの旅。雇った通訳兼コックとラクダ使いとの3人で、灼熱(しゃくねつ)地獄の砂の大地を踏破した42日間の「冒険譚(たん)」だ。ラクダに乗る腰の痛さに耐え、睡魔と闘い、鶏の餌のような食事と水不足に悩まされ続けた。最後は栄養失調で骨と皮に。
 苦難を乗り越えてレンズが捉えた数々の写真は貴重な記録になった。「今はテロ組織の支配地域となって近づけない」(片平さん)からだ。夜明けに進むキャラバンのシルエット、低賃金で命懸けで働く鉱山労働者、水晶のような岩塩…。未知の世界は美しくも悲しくもあった。