松尾芭蕉は1689(元禄2)年のちょうど今頃、東北南部を旅している。『おくのほそ道』によれば、福島を経て6月19日に白石市に入ったと思われる。
 宿泊後の翌20日には仙台へ下る途中、平安時代の中古三十六歌仙の一人で名取市愛島にあった藤原実方(さねかた)の墓に句を手向けている。<笠島はいずこさ月のぬかり道>。雨で道がドロドロとなり、山際の笠島にある墓までは行けなかった。
 きょう、東北全域で梅雨入りした。芭蕉が歩いた仙南地域の山々は雨露の恵みを受けて緑の濃さが増したかに見える。ただ、周辺にも目を凝らすと、土肌をむき出したままの斜面も。「東日本大震災からの復興事業です。被災地閖上のかさ上げなどに使っており、ぜひご理解を」と名取市復興区画整理課。
 陸側が身を削り、海側に手を差し伸べる。傷つく山の姿は、実は地域と地域がつながっている証しでもある。
 悲しみ、苦しみ、喜びを四季折々の風景に絡めて絶妙に詠んだ芭蕉。大災禍に遭った地域に雨が降る。吟行する俳聖の姿を、空を見上げながら想像してみる。(2017.6.21)