街全体が心なしか煙たい感じがする。おまけに、香ばしく甘い香りが充満している。そんな特別な日だ。
 土用の丑(うし)の日。今晩、多くの家庭で「チン」と電子レンジの音が鳴っているのだろう。熱々、ウナギのかば焼き。明かりの下、窓の網戸やカーテンの向こうに楽しいだんらんの光景が見えそう。
 コメ作りに一粒百行(ひとつぶひゃくぎょう)という言葉があるように、ウナギのかば焼きにもさまざまな人の手間暇と苦労がある。
 宮城県亘理町荒浜でウナギ卸業を営む門馬行宏さん(60)。活ウナギを主に売り、母と弟がさばきと串刺しも行う。東日本大震災で自宅といけすを失い、数年かけ家族総出で事業を立て直した。だが、「商売は震災前の3分の1。得意先の福島に店が戻ってこない」と言う。しかも消費市場で国産養殖ものは、安価な中国産や台湾産に押される。「朝4時から働いても、なかなか報われない」と嘆く。
 ウナギが大好きな日本人。誰もがえびす顔かと思いきや、そうでもない。門馬さんは原発事故の後遺症とも闘っている。今夜のかば焼き、ほろ苦い味がしそう。