麦わら帽子に半ズボン、ランニングシャツの自分。空にはでっかい太陽が輝く。耳の奥ではセミ時雨が鳴いていた。
 ちょうど今頃、母はいつも軒下にヘチマの苗を植えた。「暑い、暑い」。首に巻いた手ぬぐいで汗を拭きながら作業した。「温暖化対策」という言葉がない時代で、なぜ育てていたのか分からない。生前、聞いておけば、と思っていた。
 先日、たまたま母の友達に会って胸のもやもやが晴れた。もう90歳になる女性は「ヘチマの実や黄色い花を見るたび思い出すよ。あんたのお母さんによく化粧水をもらったもんだ。ありがとさん」とお礼を言うのだ。なるほど、化粧水だった。記憶がうっすらよみがえった。
 物の本によれば、ヘチマの水は肌の炎症を鎮めてきれいにする。作り方は、十五夜(今年は10月4日)の頃に茎を地上50センチぐらいの所で切り、根元の方を一升瓶に差す。一晩でほぼいっぱいになるので、これをホウ酸で煮立てて布でこす。
 東北がようやく梅雨明けした。家並みにグリーンカーテンが増えてきた。ふと母の面影を追うことがある。