津波被害が大きかった名取市閖上の水道設備業長沼俊幸さん(54)は先月、6年2カ月に及んだ仮設住宅暮らしに別れを告げ、生まれ育った閖上に戻った。
 「うれしいのは匂い。住んでた人間にしか分がんねぇだろうけど、窓開げっと閖上の匂いがすんだ」。津波とその後のかさ上げ工事で景色は大きく変わっても、匂いは不思議と昔のまま。「何とも言えねえ安心感がある」と目を細める。
 一方で「以前のような暮らしは、もう難すいだろう」との寂しさもある。長沼さん方では震災前、毎年ツバメが巣を作った。一つは軒先、二つが玄関の中。だからツバメが同居する春から秋、家を留守にする時も玄関扉は常に開け放ち、ツバメが自由に出入りできるようにした。
 「それで泥棒が入ることもない。むしろご近所が勝手に上がって、冷蔵庫さ魚を置いでぐ。そんな、いい街だった」
 自慢の古里を津波に奪われ6年半。新しい家々が整然と並び始めた新生・閖上に、あのぬくもりを取り戻せないか-。長沼さんは淡い願いを胸に来春、新居のドアを開けてみようか思案し始めている。