「演劇というメディアは、ある日ある時ある場所へ、自分が選んで行かなければ出合えない、唯一の媒体です」。演出家の故蜷川幸雄さんが、自身へのインタビューなどを収めた著書『演劇ほど面白いものはない』で語っている。
 ここで語る「演劇」を「演説」に置き換えてみる。街頭で誰かがマイクを握っていれば、歩行者はまず人、声、内容を確かめ、興味と関心があるなら足を進めて聞き耳を立てる。つまらないなら立ち去るだけ。そこはまさに劇空間である。
 衆院選が公示された。日本列島を選挙カーが行く。今度の総選挙は異例の野党第1党の分裂直後だけに、いつになく街頭演説が気になる。解散の大義、安保法制や憲法改正への主張、消費税増税分の使い道、あるいは連立の在り方…。与野党問わず各候補に聞いてみたい。
 蜷川さんはせりふ語りの演技指導でいつもこう言っていた。「相手に届くように、人間として自己主張するような表現をしてほしい」。この言葉、何やら演説する人にもそのまま当てはまらないか。有権者は目を凝らし、耳を傾けよう。