ピンポーン。休日に家で一人のんびりしていると、宅配便が来た。届け物は妻の化粧品。代引きだった。こんなときに限って持ち合わせがない。仕方なく、趣味でコツコツ集める旧札の貯金箱から千円札を4枚取り出して渡した。
 20代の配達員は不安げな表情で「古いお札ですね。誰です、この人?」。「夏目漱石でしょ」と言うと、「もらっていいのかな」「野口英世より髪が薄い」とか言いながらも収めて出て行った。明治・大正の文豪は13年前に肖像から消え、はるかいにしえの人になってしまった。
 東北大付属図書館は来月3日から14日まで、漱石生誕150周年記念展「夏目漱石 その魅力と周辺の人々」をせんだいメディアテークで開く。同館が誇る蔵書豊富な「漱石文庫」と共に、日記や手帳などを公開。弟子の阿部次郎や小宮豊隆、友人土井晩翠らとの親交も紹介する。
 司馬遼太郎は著書『十六の話』に書いている。「漱石によって、大工道具でいえば、鋸(のこぎり)にも鉋(かんな)にも鑿(のみ)にもなる文章ができあがった」と。
 大丈夫、旧札は色あせず通用する。