作家の故吉村昭さんの短編『山茶花(さざんか)』は、寝たきりの夫の介護に疲れ、首を絞めて殺害した初老女性の話だ。泣きながら何度も「死にたい」と言い続けていた夫。女性は悲嘆し手をかけてしまう。
 現実にある深刻なテーマを、小説として重苦しくない人間模様に仕立てた。
 会員制交流サイト(SNS)上にあふれる「死にたい」の書き込み。若者の揺れる心を映すキーワードである。「死にたいほどつらい。その気持ちを安心して伝えられる相手を探している」「生きたいサインだ」とみる専門家は多い。
 誰もが救いを求めている。若者も老人も変わらない。だとすれば受け止める側の問題かもしれない。小説の女性は刑に服した後、「夫の言葉に従っただけ」と言い聞かせる。着飾って華やかな新生活を始めても「誰か相談相手を探せなかったか」という悔悟は、一生消えまい。
 職場近くの生け垣にこぼれるように咲くサザンカ。冬に向かうこの時季の楽しみだ。寒気にめげず、赤い花弁を懸命に広げている。さりげない命の営みに触れる喜び。生きていればこそである。