正月ということで、縁起の良さそうな掛け軸を出した。元東大寺管長の故清水公照さんの円相図。建て売りの「うさぎ小屋」なので、床の間という風流なものはない。掛けるのは和室の壁だ。
 墨痕鮮やかに、一筆書きで円が描かれている。円相は、悟りの境地や仏性の本来の姿を象徴的に表しているという。円の形は完全無欠であることから、「無限の宇宙」にも例えられる。
 修行を積んだからだろう。迷いが感じられない一気の筆運び。凝視すれば、単純そうで奥が深い黒白の世界が広がる。見る人の心を映す「円窓」でもあるとか。道理で少しゆがんで見えたわけだ。
 脇に「坐花酔月(ざかすいげつ)」(花に坐し月に酔う)の4字が添えられている。時に腰を下ろして鮮やかな花に見とれ、時にこうこうとさえる月を眺める。自然の実相に触れよ、という高僧の教えだろうか。
 慌ただしさに振り回され、そんな余裕すらなかった自分に気付かされた。夜、外へ出てみる。冷たいが、すがすがしい外気。見上げれば、澄み切った夜空に輝いていたのはまん丸の大きな月だった。