<野蒜(のびる)とふ愛(いと)しき地名あるを知る被災地なるを深く覚えむ>。皇后さまが昨年詠まれた数ある歌から選んだ3首のうちの一つだ。宮内庁が先日発表した。
 東日本大震災の被災地に野蒜(東松島市)という地名があったことを皇后さまは震災直後に知ったという。大変な被害だった。だとしても、なぜいとしいのか。
 昨年の歌会始での御歌に答えがある。<土筆(つくし)摘み野蒜を引きてさながらに野にあるごとくここに住み来(こ)し>。ツクシやノビルが生え、まるで野のような御所の庭。ここで暮らして幾年過ぎたか-。
 皇居の自然の中でたくましく生きるノビルと、苦難から立ち上がる野蒜の人々の姿が心の中で重なった。胸が熱くなるような感慨が呼び起こされたのではないか。この2首は一対の作に思える。
 両陛下の被災地への視線には痛みを分かち合う意思がこもる。国民を常に気遣っているからこそ、いたわりが力強い祈りとなって歌に命を吹き込むのだろう。
 歌会始があす12日、皇居で行われる。題は「語」。皇族方や一般入選者が真情を込めた作品だ。心して味わいたい。