朝刊に連載中の「うたの泉」に印象深い歌が紹介されていた。<「花を見においで」と言ひし友の亡くまた巡り来る花の季節は>。この作品は、NHKが5年前に募集した震災詠を集めた歌集に載っている。作者は仙台市太白区の主婦沢村柳子さん(69)。
 「震災の数年前に知り合った年下の友達のことです。6人ほどのグループで毎週のように会って、お茶をして、時にはランチに行って…。友人は南相馬市に家を建てたばかりで、もうすぐプランターに花が咲くから見に来てほしいって。みんなでお花見にも行こうねって」
 津波に流されて、50代で亡くなった友人の思い出を、沢村さんはそんなふうに語っている。花の季節が巡ってくる度に若々しく美しかった大切な友の姿と会話が脳裏によみがえる。
 芭蕉の晩年の句に<さまざまの事おもひ出す桜かな>。若き日に仕え、敬愛した主君を思い起こしている。仙台では淡い色合いのソメイヨシノが匂やかにそこここで咲き始めている。花の季節、胸に去来する思いもきっと人さまざまだろう。