<名も知らぬ遠き島より流れ寄る…>は、明治時代に仙台市で教師を務めた経歴を持つ島崎藤村の詩。続くフレーズはもちろん<椰子(やし)の実ひとつ>だが、台湾の東海岸に先月、ヤシの実ならぬデジタルカメラが流れ着いた。
 海岸を清掃中の地元の小学生が見つけたのは水中撮影用の防水ケースに入ったカメラ。メモリーカードには石垣島(沖縄県)のような風景と日本人らしいダイバーが記録されていた。先生がフェイスブックで持ち主を探し、めでたく東京都の女子大生のデジカメと分かった。
 「漂えども沈まず」。古くから文学や写真の都でも知られたパリ市の紋章には、ラテン語でこんなモットーが刻まれているそうだ。苦難に遭ってもしたたかに踏みとどまり、人生と歴史を歩んでいくたくましき精神あれ、と。
 社会という正体の知れない大海原にこぎ出し、そろそろ心が凹(へこ)みがちになっているかもしれないあなた。焦ることはない。たゆたう時を過ごさなければ、どこにも流れ着かない。あのデジカメは2年半も漂っていたそうだよ。