東日本大震災で津波被害を受けた石巻市の住宅街に小さな寺がある。秋葉山大宝院。寺といっても見た目は普通の民家だ。住職の天野秀栄さん(36)が震災後の2012年、兵庫県宝塚市から移り住んで開いた▼天野さんは震災時、宝塚市にある真言宗の本山で働いていた。「自分にも何かできることはないか」。石巻に通い始め、がれきやヘドロの撤去に汗を流した。がれきの中には位牌(いはい)や仏壇、神棚など神仏を宿した物がある。作業の傍ら、それらを供養して回った▼「復興を見届けたい。住民と一緒に祈っていきたい」。天野さんは12年3月に本山を退職し、石巻で被災した民家を改修して寺とした。「住民が落ち着いて仏さんを拝んだり、悩みを相談したりできる場でありたい」。檀家(だんか)はないが、要望があればどこにでも供養に出向く▼供養は元々、「尊敬」を意味するインドの言葉の訳だという。「供に養う」と書く。一方的なものではなく、死者の冥福を祈る時は死者もまたわれわれの幸せを祈っており、心が安らぐよう養ってくれる。天野さんはそう説明する▼今年は震災犠牲者の七回忌。犠牲者の鎮魂を祈り、供養する。それは恐らく、今生きているわが身と社会を見つめ直すことにもつながる。そんな節目の3月が間もなく巡ってくる。(2017.2.28)