<その頂上からの放射線状の展望は、天下一品である。どちらを眺めても、眼(め)の下には豊かな裾が拡(ひろ)がり、その果てを限ってすべての山々が見渡せる。誇張ではない。本州中部で、この頂上から見落(みおと)される山は殆(ほと)んどないと言っていい>▼登山者を魅了する長野県の八ケ岳を、作家深田久弥はそう紹介した。だが、残念ながら遭難事故も起きる。八ケ岳で今年2度、救助活動を行ったのが同県消防防災航空隊だ。ヘリコプターで登山者をつり上げる隊員の様子が、県のホームページに紹介されている▼山岳救助のリーダーになるはずだった消防隊員らが5日、松本市付近の山中でヘリコプター墜落事故に遭ってしまった。9人も犠牲になった。隊員らは人の命を救うために腕を磨く訓練中だった。それがやるせない▼消防防災ヘリ「アルプス」は、2014年9月に発生した御嶽山噴火災害の際にも活動した自慢の航空機だ。赤、青、緑、白の鮮やかな機体は、救助を待つ人の希望でもあったはずだが▼ヘリコプターの生みの親はロシア人科学者イーゴリ・シコルスキー(1889~1972年)。ヘリの活躍を伝える新聞記事などを切り抜き、生涯大事にしていた。全てが人命救助の場面だったという。そんなエピソードを知ると、さらに切なくなる。(2017.3.7)