「自分が気落ちした姿を見せたら部下に伝わる。それは避けたかった」。被災自治体の元男性職員の打ち明け話を退職時に聞いた。津波で息子を亡くしたが、通常勤務し普段と変わらない様子で仕事をこなしていた▼震災復興に向き合う自治体職員は、今が人生最大の働きどころだと自覚しているはずだ。その責任感は態度に出る。さまざまな困難を抱えつつも頑張れるのは「目標がはっきりしているからだ」と男性は言った▼原発事故による避難指示が解けて1年半の福島県楢葉町。職員に率先して町内に住むよう求める松本幸英町長が「帰町しないなら昇格・昇給させない」と発言した。全町民に帰町を促しながら、職員の半数以上がいわき市などからの通勤では示しがつかないということだろう▼町民が帰りやすいよう地ならしするのは町として当然のことだ。ただ、職員も避難を余儀なくされた住民の一人である。人事を盾に取り無理強いはできまい。住まいは人の生活そのもので、簡単には整理できない課題だと改めて分かる▼「いずれは戻るが、今は難しい」「責任を持って仕事をしている」と職員らも、もどかしさを抱えている。目標を共有する部下の自主性を信頼してはどうか。評価するべきは日頃の仕事ぶり。対立は決して得策でない。(2017.3.8)