内戦の続くシリアは古くからせっけんの産地として知られる。14世紀の探検家イブン・バットゥータが「そこではれんが状のせっけんが作られていて、カイロやダマスカスに運ばれる」と書いている。オリーブの栽培が盛んで、その油が原料となるのだ▼表面は土色だが断面はきれいな緑色。日本でも手に入る。せっけんは油とアルカリ剤で作られる。その化学反応が、この地に恵みをもたらしてきた。だが、現代の市民は悪用された化学によって苦しめられている。毒ガスに代表される化学兵器だ▼呼吸困難に苦しむ人々の映像を見たことがあるだろう。実は、開発や生産などを禁止する国際条約があって、シリアを含む192カ国が加盟している。ところが、それ以上の大量破壊兵器である核兵器には、禁止条約がない▼27日に始まった制定に向けた会議で、日本は「交渉に参加しない」と表明した。世界で唯一の戦争被爆国である。「核なき世界」を掲げてきたはずだ。そのリーダーシップを国際社会は求めていたと思うのだが▼秋田市出身の写真家小松由佳さんが、シリアから逃れてきた老夫婦を撮影した1枚がある。オリーブの木陰で「平和な土地に暮らせれば十分だ」と笑っている。平和の大切さを日本ほど知っている国はないはずなのに。(2017.3.29)