透明な体に内臓が透けて見える。ぴかぴか輝いているのは新鮮な証し。瞳だけが見事に黒い。石巻市の鮮魚店に春を告げる魚シラウオが並び始めた。<白魚や石にさはらば消えぬべし>。松尾芭蕉が詠んだようにその姿は消えうせんばかりに繊弱だ▼ハゼ科のシロウオ(素魚)と間違いやすいが、シラウオはサケやマスの仲間。体長5センチほどで大きくても10センチくらい。か弱く、水揚げされるとすぐ死んでしまう。シロウオのように「躍り食い」はできないが、新鮮なら生でもいける▼鮮魚店で買い求めたシラウオを、わさびを添えた三杯酢ですすり込むように食す。軽やかなうま味と甘味が広がる。すまし汁の種にしても、カラッと揚げてもおいしい。デリケートな味を楽しめる▼その昔、徳川家康はシラウオを好んで食べたらしい。江戸の佃(つくだ)島で漁獲されたシラウオが毎年、将軍家に献上された。佃島のシラウオはもっぱら献納するもので、それ以外の者は捕ることまかりならぬという厳しい達しも出されたという(末広恭雄『魚と伝説』)▼佃島がある隅田川河口のシラウオ漁は、水質悪化のため消えうせてしまった。三陸の海は東日本大震災で被災したが、それでも季節ごとに豊富な魚種が揚がる。「3.11」が過ぎて食卓にも春がやって来た。(2017.3.30)