作家の太宰治は名コピーライターでもあった。「富士には、月見草がよく似合う」(『富嶽百景』)をはじめ数々の名文句を残した。『人間失格』『斜陽』といったタイトルの付け方も秀逸だった▼1946年に発表した初の本格的な戯曲『冬の花火』もその一つに挙げてもいいかもしれない。太宰が戦後社会に抱いた希望や理想が現実に裏切られ、ばかばかしいものでしかなかったことを、花火と時季外れの冬を組み合わせることで表した▼もっとも、今の時代、冬の花火は年越しの祝砲などでおなじみになっている。冬だけでなく、一年中花火が打ち上がる街もある。8月の大曲の花火(全国花火競技大会)で知られる大仙市だ▼市観光物産協会のホームページにある「花火暦」には、大小19の大会が載っている。来月も南外地区で3日に「楢岡さなぶり酒花火」が予定されている。田植えが一段落した時季、日本酒を酌み交わしながら、豊作を願った約1000発の花火を観賞する▼市は花火を生かしたまちづくりを進めており、「花火ワールドカップ」の構想も抱く。世界中の花火師たちが技を競って打ち上げた大輪を、国内外の観客が肩を並べて楽しむ。そんな光景が見られる日もそう遠くはないだろう。もちろん、見上げる夜空に国境はない。(2017.5.22)