五月晴れに誘われ、先日訪ねた福島県飯舘村。峠を越えて入った山里の新緑は美しいが、集落の風景は寂しい。3月末に東京電力福島第1原発事故の避難指示が解除されたのに、住む人の姿はなく、除染を終えた農地は土色のまま▼「本格的な営農再開には、地区の仲間との共同作業を復活させなくてはならないが、戻る住民はまだ3戸ほど」。同村佐須地区の農業菅野宗夫さん(66)は言う。当初から帰還を志し、原発事故の翌年から自宅で稲作試験を重ねてきた▼放射線や土壌の専門家らのNPOが水田の除染を応援。取れたコメは検査で3年続けて、出荷できるレベルの安全性が確かめられた。今年は通常の栽培が可能になり、大勢のボランティアが希望の苗を手植えした▼「飯舘で当たり前のコメを作れる。それを実証した成果を村民と分かち合い、帰還を助けたい」と菅野さん。大半の農家が根強い風評を恐れて「作っても売れない」と諦めているのが現実だが、「挑戦しなくては何も始まらない」▼水田の一角には酒米も作付けされる。支援者の東京大教授溝口勝さん(57)が昨年、同大農学部の有志と試験栽培の酒米をテスト醸造したところ、「十分いける味だった」と言う。「飯舘ブランドの日本酒も世に出したい」と菅野さんらは夢を温める。(2017.5.27)