英国籍だった紀行文作家、小泉八雲(やくも)が1890(明治23)年に来日した際、街の印象を自著『日本の面影』に記した。「青い屋根の小さな家屋、青い暖簾(のれん)のかかった小さな店舗、その前で青い着物姿の小柄な売り子がほほ笑んでいる」▼4月、横浜港から人力車に乗って眺めたらしい。西欧にはない風景が広がり、全てが青みを帯びていた。江戸から明治期に生きた人々の暮らしは、今よりももっと藍染めに彩られていたのであろう▼日本女子ゴルフ界はこの15年ほど「藍ちゃん」こと宮里藍選手(31)の色に染まった。宮城・東北高時代に釜山アジア大会で優勝した後、プロツアーのミヤギテレビ杯ダンロップ女子を制しプロ転向。日米で24勝を積み上げた。一方、米ツアーに挑んだ横峯さくら選手らが環境に適応するよう支え続けた▼きのう引退表明の記者会見に臨んだ。「モチベーションの維持が難しくなった」「自分に向き合えなくなった」と、2013年以降優勝から遠ざかりもがき苦しんだ胸の内を語った。神経をすり減らす自己との闘いがあったのであろう▼ゴルフとは1打目だけ同じ景色で打つ競技である。2打目から位置は異なる。東北のファンは藍ちゃんの歩みに伴って歓喜と苦難の風景を見た。起伏に富んで、何と痛快であったか。(2017.5.30)