「消費者と交流を広げ、安心して魚を食べてもらおう。試験操業を一日も早く本操業にしよう」。昨年秋、相馬市松川浦漁港。東日本大震災で壊れた荷さばき場の再建祝いの祭りで、相馬双葉漁協組合長の佐藤弘行さんは仲間に訴えた▼福島県では、東京電力福島第1原発事故による6年前の汚染水流出以来、漁自粛が続く。漁協が復興の希望を懸けて行うのが、試験的な漁獲と出荷だ。津波で妻を失いながら、底引き船主として、4年前からは組合長として活動を引っ張ってきた▼県の監督下で当初漁獲できた魚介類は3種。「いまは90種以上が安全のお墨付きを得た。漁師の努力が実りつつある」と喜んだが、道半ばの61歳で先月他界した。心労を重ねたのが、たびたび露見した第1原発の汚染水漏えいと、試験操業を直撃した風評だ▼今季のコウナゴの試験操業が始まった3月、漁協は6年ぶりに競り入札を復活させ、荷さばき場は活気づいた。が、佐藤さんは新たな危惧を語っていた。第1原発に保管された80万トン近いトリチウム水の行方だ▼汚染水処理で唯一取り除けない放射性物質で、国では「希釈して海に放流する」などの案が浮かぶ。「だが、風評の広がりは計り知れず、われわれの努力は台無しになる」。組合長が願った海の復興はまだ遠い。(2017.6.9)