切ない歌詞と歌声が相まって、いつの頃からか「泣き歌の貴公子」と呼ばれる。新庄市出身の歌手林部智史さん(29)は、透明感のある歌声の持ち主だ。10万枚を販売したデビュー曲「あいたい」など、これまでシングル3枚を発表した▼線が細い印象とは裏腹に、小学2年生からバスケットボールに打ち込み、一時はプロ選手を目指した体育会系だ。夢をかなえようと1浪までして全国大会準優勝の実績を持つ山形南高に入学。その後、ボールをマイクに持ち替えるまで多くの試練を味わった▼高校では全国の舞台に立つ力を備えながら、けがを恐れ、こぼれ球に飛び込めない自分に限界を感じ競技者の道を断念。看護師を志して専門学校に進むも、実習で患者の死をきっかけにうつ病を患い、退学した▼次々と目標を失い、住み込みで働きながら全国を転々とする日々を送る。放浪先で歌声を絶賛され、歌手になろうと決意。上京後、新聞奨学生をして学費を稼ぎ、音楽専門学校を卒業した。アルバイトを経てテレビのカラオケ番組で脚光を浴び、2016年にデビューを飾った▼地声は若いのに、歌になると情感にあふれ、憂いを帯びる。「歌は人生経験が出る」と林部さん。実年齢以上に成熟した響きは、多感な時期の苦悩と挑戦のたまものだろう。(2017.7.2)