「震災のことについて、福島のことについて、少しでも語り継いでいただく機会となれば幸いです」。福島市の詩人、和合亮一さん(48)は震災詩集『詩の礫(つぶて)』(徳間書店)のフランス語版が現地の文学賞に選ばれた際にこうコメントした▼芸術作品は震災の風化に十分あらがう力になり得る。こちらの受賞もその起爆剤になってほしい。盛岡市に住む沼田真佑(しんすけ)さん(38)が第157回芥川賞を射止めた。受賞作『影裏(えいり)』は岩手県を舞台にした震災小説で、「わたし」と、「巨大なものの崩壊に陶酔しがち」な釣り仲間の友情に震災が影を落としていく▼沼田さんは5年前、両親の暮らす盛岡に福岡から移住。今回の小説について「岩手にいるのに震災に触れないわけにはいかなかった」と語る。海、大地が織りなす風土に心を動かされ、震災のテーマは必然だったようだ▼繊細な筆致も際立っている。選考委員の高樹のぶ子さんは「岩手の大自然の描写も、きらきらして美しい」と絶賛。20代半ばで小説を書き始め、今回がデビュー作というのだから快挙と言っていい▼東北関係者で芥川賞を受賞した人は指で数えるだけ。それだけ難関中の難関の文学賞なのだ。沼田さんの明るいニュースが東北文学界を大いに刺激してくれるはず。爽やかな風になることを願う。(2017.7.21)