秋田県には、三つの湖の誕生にまつわる伝説がある。青森県にまたがる十和田湖、大部分が干拓された八郎潟、そして最深部が423メートルと日本で最も深い仙北市の田沢湖。いずれも竜が登場する▼田沢湖の「辰子(たつこ)姫伝説」は、美しさを保ちたいと泉の水を飲んだ辰子が竜に変身する。悲しんだ母親が娘を思って湖にたいまつを投げると、水中でマスになった。「木の尻マス」と呼ばれるようになり、それを食べた佐竹藩主が地元産ということから「国鱒(くにます)」と名付けた▼ヒメマスに似た田沢湖の固有種クニマスは、かつて漁が営まれ、1匹がコメ1升に相当すると言われるほど珍重された。しかし、電源開発などの目的で強酸性の玉川から導水したことで、1940年ごろに姿を消した▼約500キロ離れた山梨県の西湖で生息が確認されたのは2010年。1930年代、西湖に移した受精卵がふ化し、人知れず命をつないでいた。人工ふ化した2歳魚10匹が山梨県から仙北市に貸与され、うち5匹が今月開館した「田沢湖クニマス未来館」で展示されている▼地元では水質改善の取り組みが続くが、クニマスがすめる環境には遠い。今は水槽にいるクニマスが、往時のように湖を悠然と泳ぐ。施設名の未来には、その日が来ることへの希望が託されている。(2017.7.23)