同郷や学校の先輩は、心強いものだ。何か便宜を図ってくれるかどうかなどは別である。たとえ会ったことのない先人でも、後輩が進む道を照らす明かりになってくれる▼わが国を代表するオペラ団体の一つである藤原歌劇団で活躍するソプラノ歌手、野田ヒロ子さん(盛岡市出身)にとって、伊藤敦子(1902~86年)は、そんな存在だろう。34年の藤原歌劇団旗揚げの際に、プッチーニ「ラ・ボエーム」で主役のミミを演じたプリマドンナだ▼花巻市出身の伊藤は盛岡高女(現盛岡二高)OGで、戦前にイタリアへ渡って定住。欧州各地の歌劇場でプッチーニ「蝶々夫人」などに出演し、高い評価を得た伝説的歌姫だ。引退後は日本人留学生たちを熱心に世話したという▼野田さんは盛岡二高時代「日本のオペラの先駆けに、こんな素晴らしい先輩がいるなんて」と感激。声楽家を目指す上で心の支えにもなった。30日、奥州市文化会館の25周年を祝う「ラ・ボエーム」公演では、同市出身の人気テノール歌手、福井敬さんを相手役に主演する▼先輩が演じたミミ役を故郷岩手で歌うことに「光栄です。少しでも近づければ…」と張り切る野田さん。彼女や福井さんの舞台に接することで、音楽の道を進む決意を固める後輩もきっといるに違いない。(2017.7.26)