犬が蓄音機のそばに座り、ラッパ型ホーンをのぞく図柄。今は亡き飼い主の声が聞こえてくる。「匂いがない。なぜ?」。空気の振動に聴覚を集中し、あるじの面影を追っている▼犬の愛称はニッパー。19世紀後半、英国の画家が兄の死去により引き取った愛犬のある日の一こまを絵に描いた。古くは日本ビクター(現JVCケンウッド)が、現在、ビクターエンタテインメントがロゴマークとして使用する。アナログ式録音再生のぬくもりがじんわり伝わってくる▼今、レコード人気が復活の兆しを見せる。昨年の国内生産量は底を打った2009年比約8倍の80万枚。歩調を合わせてレコード針も右肩上がりで売れる。世界シェア9割を誇るナガオカ(東根市)は昨年250万本生産と前年から50万本増の勢い。ニッパーもさぞにんまりだろう▼何が魅力なのか。レコード愛好家同士で情報交換をするという仙台市太白区の会社員結城憲一さん(45)は「針を乗せたりA面からB面にしたり、操作がたまらない」と話す。なるほど、手触り感覚がいいらしい▼大手音楽出版も動きだした。多くの著作権を持つソニーの子会社が29年ぶりにレコードの自社生産を再開する。ノイズが混ざる音。耳を傾ければ、あるじの新たな一面が見えてくるに違いない。(2017.7.31)