「タイムスリップもの」が映画やドラマで大人気だ。歴史のヒーローが目の前に現れたら、どう行動し、難問を解決するか。想像しただけでわくわくするが、それが忌み嫌われる独裁者の復活だったらどうか▼こんな毒気と風刺、自虐たっぷりの話を得意とするのがドイツ映画。現代のドイツの首都ベルリンに突然アドルフ・ヒトラーが現れた。第2次大戦の敗北で自殺したはずなのに、なぜか時を超えて▼『帰ってきたヒトラー』(昨年日本公開)というブラックコメディー。独裁者の「そっくり芸人」として超売れっ子になるが、劇中「2度の大戦時よりひどい」と当人が語る昨今のドイツ社会の混乱を映画は浮き彫りにする▼膨大な難民の流入を巡り国民は対立し、差別や排斥、暴力が広がり、問題を解決できぬ政治に不満が高まる。「変革し、責任を取る指導者が今こそ必要」。タイムスリップした独裁者の演説はテレビやネットで共感と支持を広げ…との着想は恐ろしく、もう笑えない▼「戦争を辞さない」「大勢が死ぬが、米国でなく向こう側で死ぬ」。北朝鮮のミサイル開発にいら立つトランプ米大統領がこう語った、と先日報じられた。その時、同盟国のはずの日本や韓国はどうなるのか、と背筋が凍る。こちらは映画の独裁者の話ではない。(2017.8.10)