デビューした1956年暮れ、住まう米南部のテネシー州メンフィスで黒人ラジオ局のチャリティーショーが催された。聴衆は黒人ばかり9千人。21歳の若き白人歌手は1人で行った。そのうち周囲に見つかり、ステージに引き上げられ『ハートブレイク・ホテル』を歌った▼大歓声が似合う人、エルビス・プレスリーである。死去してから16日で40年がたった。逸話を集めた『エルヴィス、最後のアメリカン・ヒーロー』(前田絢子氏著)は、彼の言葉も紹介している。「黒人パフォーマーは心の底から魂の歌を絶唱します。彼らにはかないません」▼ロックは黒人をルーツとするリズム・アンド・ブルースと白人の軽快なカントリー音楽が融合して生み出された。これを見事に表現したのがプレスリーであり、あらためてその生き方が脚光を浴びる▼米社会は今、白人至上主義団体と反対派が衝突した事件で揺れる。トランプ大統領は「両陣営に責任がある」と人種差別を容認するかのような発言までした。憎悪や偏見を音楽で壊してきたロックの王様には残念な母国の姿であろう▼天国からあの低音で甘い歌声が聞こえる。♪傷ついた心を晴らしな…つらくなったら訪ねてみな…そう、ハートブレイク・ホテル。米国人を癒やす場所は今どこだろう。(2017.8.18)