東欧のボスニア・ヘルツェゴビナにモスタルという古都がある。世界遺産の美しい橋が有名だが、24年前、激しい民族紛争で破壊された。その時、路上で「戦争をやめろ」と訴えたのが、地元サッカーチームの監督だったバヒド・ハリルホジッチさん▼銃撃され、命を付け狙われてフランスに脱出。家も焼かれたが、欧州やアフリカで名監督となり、2年前から日本代表を率いる。代表監督の先輩イビチャ・オシムさんが同胞で、その郷里も戦場となった。戦火の歴史を重ねた同地の男は頑固な反骨漢が多いという▼来年のワールドカップ・ロシア大会出場を懸けた先夜のオーストラリア戦。日本代表の鮮やかな勝利に、テレビの前で歓声を上げた家庭も多かろう。躍動したのが新世代の選手たち。常連の香川真司選手(FCみやぎ出身)、本田圭佑選手らはベンチにいた▼大胆な抜てき、そして非情と映った采配こそハリルホジッチ流らしい。アルジェリア代表監督だった前回ブラジル大会では、相手を研究し尽くして選手を替え、変幻自在と言われた▼「1人で全責任を負っての決断は本当に孤独」と語ったのは元日本代表監督の岡田武史さん。負ければ批判され解任も待つ。決戦勝利は、生死の分かれ目をも踏み越えた勝負師の本領発揮だったろう。(2017.9.2)