仙台市陸上競技場で三段跳びの世界記録を出した経験を持つ故小掛照二(こがけてるじ)さんが同施設を訪れたとき、懇談したことがある。記録を出すには相性が必要で、「場所、天候、ライバルとか全てがはまると、伸びしろ以上のものが発揮できる」という内容の話を聞いた▼1956年10月7日、メルボルン五輪最終予選会を兼ねた日本選手権。国内の一線級がそろう中、従来の世界記録を25センチ上回る16メートル48はこうして生まれた。懇談では「いい記録には押し上げる力がある」とも語った▼きのう陸上の日本学生対校選手権で、21歳の桐生祥秀(よしひで)選手(東洋大)が男子100メートルで9秒98の日本新記録を樹立した。日本人がはね返されてきた「10秒の壁」を突破。高速ピッチを駆使した抜群の加速が際立ち、走るレーンはまるで風が渡るようだった▼「予感はあった」と陸上関係者。日本短距離陣は昨年のリオ五輪男子400メートルリレーで銀メダルを獲得し、群雄割拠の時代を迎えている。その中で桐生選手は6月の日本選手権4位。巻き返しへの闘争心は相当あった▼今、快挙のレースをテレビが伝えている。見ていてサニブラウン・ハキーム選手(東京陸協)らライバルたちの姿がダブる。そして故吉岡隆徳(たかよし)さん、飯島秀雄さん(73)らも…。厚い壁は歴史と総合力で壊した。(2017.9.10)