ラストシーン、家に一人たたずむ故笠智衆さんの寂しそうな背中が大写しになる。故小津安二郎監督の最後の映画『秋刀魚(さんま)の味』(1962年公開)。妻を亡くした父が娘を嫁にやるまでの筋立てで、「完」を見てやっとタイトルの意味を知る▼全編1時間53分。サンマ1匹現れない。戦争を知る男が戦後を生きていくのは、失ったものと新時代をのみ込むものであり、それはどこかサンマの味わいに似ているという。甘く、塩っ辛く、時には苦い▼最近、サンマ不漁のニュースに接すると、笠さんの背中がどんどん遠ざかっていく感じがする。昨年の漁獲量本州1位大船渡港に続き同3位気仙沼港もイベントの延期や中止を強いられた。これでは魚名の由来の一つとされる「祭魚(さいら)」の名が泣こう▼だが、不漁の流れは止まらない。70年代は漁獲量20万~30万トンで推移しながらも、ここ2年は約11万トンと過去最低を記録。先の国際会議で水産庁は「サンマ自体が減りつつある。今年も同じ程度か」と明らかにした▼ただ、漁獲量は隣の台湾が日本を逆転し中国も急増中とか。やはり、寒流や暖流という潮の流れも影響しているのだろう。でも、日本人にしか分からない『秋刀魚の味』の妙味も国境を越えていく。それはそれで、「うれしい」と言っておく。(2017.9.16)