作家の森敦(1912~89年)は戦後、酒田市に生まれた妻の縁を頼って庄内地方を転々とした。伏した牛のような出羽三山を折節に眺めていたが、背の部分に当たる主峰の月山が、どうして月の山と呼ばれるのか分からなかった▼いかに五感を働かせても、時と場所を得なければ答えは見えてこない。ある冬、彼は庄内平野とは反対の肘折渓谷側から、白く輝くまどかな山容を望み、「この世ならぬ月の出」を実感する。代表作『月山』の冒頭、読者が作品の世界へ導かれる部分だ▼雪と闇の描写に圧倒される『月山』の数少ない彩りとして、「セロファン菊」が登場する。どんな花なのか、以前から気になっていたが、先日、鶴岡市大網の注連寺に花を求めた。森は51年夏から翌春までこの寺で過ごし、作品につながる体験をしている▼「貝細工草(カイザイクソウ)と呼ぶのが一般的です」。住職の妹、佐藤美恵さん(46)が教えてくれた。オレンジ、朱、アイボリー…。予想外の、派手な花だった。促されて、花弁をなでてみる。かさかさした独特の感触が、セロファンとあだ名されるゆえんであるらしい▼本堂から望む月山は、季節の色を帯び始めている。小旅行にも適した季節。何かを探しに、出掛けてみては。森の文学碑の脇に、初秋の花も咲き残っているはずだ。(2017.9.18)