「つち音はいいものだ」。石巻市北上町十三浜の山林にできた移転地で、佐藤清吾さん(75)は次々と建つ昔なじみの家を頼もしく眺める。6年半前の東日本大震災の津波で、同じ集落にあった50戸の大半が跡形なく流されたが、29世帯が再び集うことになった▼仮設住まいをしながら名産のワカメ養殖復活に仲間と取り組み、移転先の土地探し、交渉に当たった。地権者の家族全員が津波で逝き、遠方の相続権者を訪ねて承諾を得たこともある。苦労のかいあって、「集落から車で1分の移転地は日当たり、風の通りも良い」▼新居に入ったのは7月。一緒に暮らす娘さんの長男で孫の嘉宗君=当時(7)=、妻由美子さん=同(58)=の大きな遺影を寝室に飾った。犠牲になった集落の人々と同様に、佐藤さんが避難させた先の実家もろとも海に没した▼一日も頭を離れない悔恨の日々だったが、由美子さんの穏やかな表情に朝夕触れ、「今は新しい家で一緒にいると感じる」。お墓がある共同墓地も移転地のすぐ近く。津波で亡くなった身内は近隣の浜を含めて18人に上り、その多くの魂が眠る▼「墓を守っていくのも、生き残った自分の務めだという思いがある」。きょう20日から秋の彼岸。地元を離れた縁者ら、お参りに訪れる人を家に迎えたいという。(2017.9.20)