かつて池田勇人首相が衆院を解散した。本会議後、自民党の代議士会が始まり、大野伴睦副総裁がマイクを握った。「猿は木から落ちても猿だが、代議士(衆院議員)は落ちればただの人」。1963年10月23日のことである▼翌日の本紙を開いてみた。アレッ。1面「記者席」という欄に「大野副総裁も『諸君、前代議士諸君、そして将来の新代議士諸君…』と前置きして万歳三唱の音頭を取り」と描写があるだけ。名文句はない。実は他の新聞もきちんと掲載していなかった▼その理由を、英文学者の外山滋比古さんが自著『ユーモアのレッスン』に書いている。「百戦錬磨の政治家、俳人でもあった大野の面目躍如であることを見抜く記者がいなかった」。高度経済成長の中で東京五輪を1年後に控える時代、政治の機微を伝える記事は二の次だったのか▼きのう衆院が解散された。与野党の対決構図は今回がらりと変わりそうだから、候補予定者たちのナマの声が余計に新鮮で面白い。「現在ただの人たち」から、さてどんな名文句が生まれるか。見逃すまい▼「一瞬が意味あるときもあるが、10年が何の意味を持たないこともある」。大平正芳首相が総裁選の自らの勝利を驚いて語った言葉だという。「未来を占う一瞬」のゴングが事実上鳴った。(2017.9.29)