「私の古里になってくれて、ありがとう」。大崎市鳴子温泉の東鳴子温泉で旅館を営む大沼伸治さん(55)に先日、メールが届いた。首都圏に住む女子大生からだった。彼女は9月にあった湯治体験ツアーに参加し、地元の人たちとの交流に胸を熱くした▼現代社会にマッチした湯治を模索する大沼さん。「若者湯治」を企画したのもその一環だ。鳴子ファンを自認する東大大学院教授のロバート・キャンベルさんは、好きな本と一緒に過ごす「読書湯治」を提唱している。農林業体験、器楽演奏、スポーツ…。現代湯治には、いろんな切り口がありそうだ▼大沼さんの元で「ゴルフ湯治」を楽しむのは、大阪市出身でスイス在住の今川玲子さん(59)。チューリヒの銀行に30年勤め、休暇はスペインやフロリダで過ごしていた。湯治に転向して3年目。今回の滞在は、11月上旬まで2カ月半に及ぶ▼早起きしてお風呂に行く。鳴子周辺のゴルフ場に出掛ける。夜は共有スペースで他の湯治客と談笑する。「余計な力が抜け、よく眠れる。お湯は悩みを洗い流してくれ、私は『ありがとう』の気持ちを置いて帰るんです」▼見知らぬ同士が湯煙の中で出会う。憂いが消え、感謝の言葉が残る。「そこから、新しい文化が生まれたら」と、大沼さんは願う。(2017.10.16)